加齢黄斑変性とは
網膜の中心には、ものをはっきり見るための視細胞や視神経が集中している黄色い組織があります。この組織を「黄斑(おうはん)」と呼びます。黄斑の中心部には中心窩(ちゅうしんか)という、重要な視覚情報を識別する部位が存在します。
加齢黄斑変性とは、黄斑部が加齢性変化によるダメージを受け、あらゆる視覚障害が出現してしまう疾患です。黄斑部には視覚機能に不可欠な組織が集まっているため、そこを障害されると、周辺部の障害よりも視覚に対する悪影響が大きくなります。中途失明の原因として、欧米では第1位、日本では第4位を占めている疾患です。
加齢黄斑変性の原因
加齢
加齢によって目の組織に様々な慢性変化が生じることで発症します。そのため年を重ねるほど、発症リスクは高くなります。
光の刺激
網膜組織が劣化する原因は何も、加齢だけではありません。「光の刺激」も挙げられます。特に紫外線は、酸化ストレスを生じるため組織の劣化に大きく関わっています。特に欧米人は目の色素が薄いため、紫外線の影響を受けやすいと指摘されています。
ただし近年では、生活様式の変化によって、パソコン・スマートフォンなどのバックライトの影響を大きく受けるようになりました。その影響により、加齢黄斑変性のリスクが増加する恐れがあります。
栄養の偏り
生活習慣病も、加齢黄斑変性を引き起こす要因になります。近年では食生活の欧米化によって、肉食を中心とした食事が増えています。そのため高血圧や糖尿病、肥満などが、日本人の加齢黄斑変性の患者数の増加に影響している可能性があります。酸化も目の劣化に大きく関わっているため、抗酸化作用を持っている食品をこまめに摂ることも大切です。
喫煙
喫煙歴があることで喫煙歴がない人よりも 5 倍の発症リスクがあると報告されています。加齢黄斑変性の予防には、何よりもまずは禁煙が推奨されます。
加齢黄斑変性の症状
視力低下だけでなく、視覚の歪みや視野欠損、色覚障害などの症状も現れます。
変視症
網膜付近の血管が障害されることで出血などが生じると、網膜が腫れたり浮腫んだりします。その結果、網膜の黄斑部が変形してしまい、視界の中心部分をきちんと見ることができなくなります。幾何学的な格子模様を見ると、線が歪んで見えるようになります。
中心暗点
中心窩の障害により、視力低下とともに、視野の真ん中が暗くなり、文字などの細かい視覚情報が見られなくなります。
色彩異常
黄斑部には錐体細胞(すいたいさいぼう)が集まっています。色を見分けるのに必要な錐体細胞がダメージを受けることで、色覚異常が起こります。
加齢黄斑変性によって失明となった場合、光を感じて明るさを受け取る能力は残されます。一方、文字などの細かな情報を見ることができなくなる、視野の中心が暗くものを見ることができなくなるなど、「社会的失明」を引き起こすようになります。
加齢黄斑変性の種類
加齢黄斑変性は2種類あり、萎縮型と滲出型に分類されます。萎縮型は、黄斑部の組織が縮むことで起こります。滲出型は、脈絡膜という網膜の下のところから新生血管という悪い血管が発生し、血液や血液の成分が漏れ出ることで発症します。
萎縮型
欧米人に多く見られるタイプです。網膜は10層もの組織で構成されていて、その一番外側に位置するのが「網膜色素上皮(網膜全体を支える層)」です。加齢によってこの周辺に老廃物が蓄積して、網膜色素上皮、視細胞、脈絡膜などの組織が萎むことで、視力低下が引き起こされます。
滲出型
日本人に多く見られるタイプです。網膜のさらに外側に位置する、脈絡膜(みゃくらくまく)という組織は、網膜に必要な酸素や栄養素を送っています。滲出型加齢黄斑変性では網膜色素上皮が障害され、網膜の下に脈絡膜から悪い血管(脈絡膜新生血管)が生じます。この新生血管はとても弱く、血管の壁から血液の成分が漏れ出して網膜の下に水がたまったり(漿液性網膜剝離)、時に破れて網膜の下に出血をおこして、視力が低下します。網膜のむくみや出血を放っておくと、徐々に視力低下が進んでしまいます。
加齢黄斑変性の治療
硝子体注射
「血管内皮増殖因子(VEGF)」という、新生血管の生成・成長を促す物質の働きを抑える目的で、抗VEGF薬を眼球内に直接注射する治療法です。日本では数種類の抗VEGF薬が登場しているため、患者様に合わせて薬剤を選ぶことが可能です。
局部麻酔を施してから行うため、痛みはほとんど伴いません。また感染症を防ぐため、目やその周辺を消毒してから注射を打ちます。
始めは4週間毎に3回注射するのが基本です。それ以降は経過観察しながら、必要に応じて再度注射を行います。
光線力学的療法(PDT)
新生血管に集まりやすい性質を持った、光感受性物質の薬を点滴する治療法です。ほとんどの場合、薬物療法と併行して行われます。新生血管が黄斑の中心部(中心窩)に発生した時に選択される方法です。薬剤が集まるタイミングを見て、弱いレーザー光を患部にあてて新生血管だけを焼失させます。
強い光に当たると光過敏症などを引き起こす恐れがあるため、治療後の48時間の間は、光に気を付けて過ごす必要があります。当院では施行できませんので、連携している病院へご紹介させて頂きます。
硝子体手術
加齢黄斑変性症に伴う出血の治療において、硝子体手術は有効とされています。具体的にいますと、悪い新生血管の一種であるPCV(ポリープ状の血管異常)の破裂により、重度の硝子体出血が引き起こされます。その場合は、硝子体手術が有効になります。
ただし、加齢黄斑変性症は手術で根治できない疾患です。計画的に抗VEGF硝子体注射などの治療を行い、長期間にわたって様子を見ていくことが重要です。
日常生活で気をつけること・できること
喫煙
禁煙は、発症や進行を抑えるのに有効です。タバコに含まれるニコチンなどの化学物質は、血管へ悪影響を与えるだけでなく、酸化ストレスの増加も引き起こします。目だけでなく全身の健康にも良くないので、喫煙している方はまず、禁煙を始めましょう。
紫外線、ブルーライトを避ける
紫外線やブルーライトは波長が短く、かつ角膜や水晶体に吸収されにくい光です。エネルギーが吸収されきっていない状態で網膜に届くため、網膜への負担も大きくなります。
「パソコンやスマートフォンを操作する時はこまめに休憩する」「モニターの色を調整する」「ブルーライトカット眼鏡を掛ける」「日差しが強い日はサングラスをかける」などの対策を取り、目を守っていきましょう。
バランスの取れた食事
バランスの取れた食事は、加齢黄斑変性の発症・進行を防ぐのに有効です。
黄色野菜などに多く含まれているカロテノイド類(ベータカロテンやルテインなど)、青魚などに多く含まれる多価不飽和脂肪酸(DHAやEPA)、強力な抗酸化作用を持つビタミンA、C、E、そして亜鉛などのミネラル類は、バランス良く積極的に摂りましょう。
肉食が多い方は、まず緑黄色野菜と魚類の摂取量を見直していきましょう。
高血圧や高脂血症の治療
高血圧や脂質異常症は、加齢黄斑変性の発症リスクを高めるとされています。「血圧が高い」「コレステロール値が高い」など健康診断で指摘された方は、お早めに適切な治療を受けるようにしましょう。